CRE戦略の失敗事例|経営目的と不動産判断が分断すると何が起きるか
2026/07/01
【結論】
CRE戦略の失敗は、物件選定や価格交渉だけの失敗ではない。経営目的、財務戦略、事業計画、承継方針と不動産判断が分断されることで起きる。
はじめに
CRE戦略というと、多くの人は次のようなテーマを思い浮かべる。
- 自社ビルを持つべきか、借りるべきか
- 遊休地を売却すべきか、活用すべきか
- 本社を移転すべきか
- 工場や倉庫を保有し続けるべきか
- 賃貸用不動産を残すべきか、組み替えるべきか
しかし、CRE戦略の失敗は、単に「悪い物件を買った」「売却価格が低かった」「建築費が高かった」といった個別の物件判断だけで起きるわけではない。
本質的な失敗は、経営目的と不動産判断が切り離されることで起きる。
- 経営は成長投資を優先したい。しかし、不動産は使っていない土地を抱えたままになっている
- 財務は借入を圧縮したい。しかし、資金を固定する低収益不動産を保有し続けている
- 事業承継を進めたい。しかし、相続人や後継者が管理しにくい不動産が整理されていない
本稿では、CRE戦略で起こりやすい失敗を整理しながら、なぜ不動産判断を経営判断として扱う必要があるのかを考える。
目次
CRE戦略の失敗とは何か
CREとは、Corporate Real Estate、すなわち企業不動産を指す。
ただしCRE戦略とは、企業が保有・利用する不動産を、単なる資産や施設としてではなく、事業・財務・承継に影響する経営資源として捉える考え方である。
CRE戦略は単に企業が持つ土地や建物を管理することではない。企業不動産を、事業・財務・資金調達・承継・組織運営と一体で考え、企業価値を高めるために活用する考え方である。
したがって、CRE戦略の失敗とは、不動産の価値が下がることだけではない。本来、不動産が果たすべき役割を果たせなくなることが、CRE戦略の失敗である。
たとえば、次のような状態である。
- 本業に使っていない土地が、資金や管理負担を固定している
- 低収益の賃貸不動産を、昔から持っているという理由だけで保有している
- 本社ビルを保有しているが、資本効率や事業規模との整合が取れていない
- 工場や倉庫の再編が必要なのに、物件単位でしか検討していない
- 承継時に問題になる不動産を、経営課題として扱っていない
- 売却すれば本業投資や借入返済に使える資金を、不動産に固定している
こうした問題の共通点は一つ——経営目的と不動産判断がつながっていないことである。
以下に、起こりやすい6つの失敗パターンとその構造を整理する。
失敗事例① 不動産だけで判断してしまう
CRE戦略で最も多い失敗は、不動産のことを不動産だけで判断することである。
- 土地の価格
- 賃料水準
- 利回り
- 建築可能な規模
- 周辺の取引事例
- 固定資産税
- 売却査定額
これらは重要な判断材料である。しかし、それだけで判断すると、不動産が経営に与える影響を見落とす。
たとえば、ある土地を売却するとする。不動産単体で見れば、売却価格が期待より低いため、売りたくないという判断になるかもしれない。
しかし、経営全体で見ると話は変わる。
- 売却資金によって高コストの借入を返済できる
- 本業の設備投資に充当できる
- 事業承継に必要な資金を確保できる
- 資産の偏りを解消できる
こうした効果まで含めて考えれば、売却は合理的な経営判断になることがある。
不動産を判断するときは、物件単体の収益性だけでは足りない。その不動産が、経営目的の実現にどう貢献しているのかを見る必要がある。
失敗事例② 遊休不動産を「いつか使う」と放置する
遊休不動産は、企業にとって典型的なCRE課題である。
- 以前は工場だった
- 事務所として使っていた
- 倉庫だった
- 事業拡大のために取得した
- 将来のために保有している
しかし現在は使っていない。こうした不動産が「いつか使うかもしれない」という理由で保有され続けるケースは少なくない。
将来の事業計画に必要な土地であれば、保有を続ける合理性はある。しかし、具体的な事業計画がないまま保有している場合、遊休不動産ではなく「判断が止まっている不動産」になっている可能性がある。
放置することで生じる主なリスクは、次のとおりである。
【注意】遊休不動産を放置した場合のリスク
- 固定資産税や維持管理費がかかり続ける
- 老朽化や近隣対応リスクが増える
- 売却・活用の好機を逃す
- 金融機関から、保有目的や資産活用方針の説明を求められる場合がある
- 承継時に扱いにくい資産として残る
- 本業に使える資金が固定される
重要なのは、使っていない土地をすぐ売ることではない。その不動産を、今後の事業・財務・承継の中でどのように位置づけるかを決めることである。
失敗事例③ 事業計画と不動産が連動していない
企業の成長戦略と不動産戦略が別々に進むと、さまざまな非効率が生じる。
- 事業は拡大しているのに、拠点再編が追いついていない
- 物流量が増えているのに、倉庫や配送拠点の配置が最適化されていない
- 人員構成が変わっているのに、本社や営業所の規模が昔のままになっている
- 事業の縮小・撤退を進めているのに、使わない不動産が残っている
これらは物件管理の問題ではない。事業計画と不動産戦略が連動していない問題である。
不動産は、事業の器である。事業が変われば、必要な不動産も変わる。拠点・工場・倉庫・店舗・営業所・本社・駐車場・遊休地の役割も変わる。
それにもかかわらず、不動産を「昔からある資産」として扱い続けると、経営の変化に対応できなくなる。
CRE戦略では、事業計画の変更と同時に、不動産の必要性・規模・立地・保有形態・資金負担を見直す必要がある。
失敗事例④ 財務戦略と不動産保有が矛盾している
企業が財務改善や借入圧縮を目指しているにもかかわらず、低稼働・低収益の不動産を保有し続けているケースがある。これは、財務戦略と不動産戦略の分断である。
不動産は担保として役立つことも、賃料収入を生むこともある。一方で、資金を固定し、修繕費・維持費を発生させる。低収益・遊休不動産を抱えれば、資本効率は低下する。
具体的には次のような矛盾が起きやすい。
【注意】財務戦略と不動産保有が矛盾するケース
• 借入返済を急ぎたいが、売却可能な遊休地を保有している
• 本業への投資余力が不足しているが、低収益不動産に資金が固定されている
• 流動性を確保したいが、資産が不動産に偏っている
- • 事業承継資金が必要だが、不動産を現金化する方針がない
重要なのは、その不動産が担保価値・収益性・事業必要性・流動性の面で、保有し続ける意味を持っているかである。
失敗事例⑤ 相続・承継を後回しにする
中小企業のCRE戦略では、相続・事業承継と不動産を切り離して考えることはできない。オーナー企業では、会社の不動産と個人の不動産が複雑に関係していることが多い。
- 会社が使う土地を個人が保有している
- 工場や本社を親族会社が保有している
- 賃料の設定が昔のままになっている
- 相続人が複数いる
- 後継者はいるが、不動産の所有関係が整理されていない
この状態で承継を迎えると、不動産が経営の障害になることがある。
- 誰が土地を相続するのか
- 会社は誰に賃料を払うのか
- 売却したい相続人と保有したい後継者の意見が一致するのか
- 共有状態になった場合、将来の建替えや売却はできるのか
こうした問題は、承継直前に考えても解決が難しい。
CRE戦略では、不動産を「経営の外にある資産」として扱わず、承継計画の一部として早めに整理する必要がある。
失敗事例⑥ 物件単体の利回りだけで判断する
賃貸不動産や遊休地活用を考える際に、表面利回りだけで判断するケースも多い。しかし、利回りが高く見えるからといって、企業にとって合理的な不動産とは限らない。
見落とされやすい要素は次のとおりである。
- 建物の老朽化・修繕負担
- テナント依存・空室リスク
- 借入残高と出口戦略
- 本業への影響・管理負担
- 保有コスト・資金拘束
重要なのは、物件単体の利回りではなく、企業全体の中でその不動産がどのような役割を果たしているかである。
不動産の収益性を見るときも、単なる賃料収入ではなく、保有コスト・資金拘束・管理負担・将来の修繕・売却可能性まで含めて判断する必要がある。
CRE戦略で確認すべき5つの視点
CRE戦略では、不動産を個別物件として見るのではなく、経営資源として見る必要がある。その際に確認すべき主な視点は、次の5つである。
| 確認軸 | 見るべきポイント | |
| ① | 事業との整合性 | 本業の成長・縮小・再編に必要な不動産か |
| ② | 財務・資本効率 | 収益性、担保価値、資金拘束、借入との関係は合理的か |
| ③ | 資産活用の可能性 |
保有・賃貸・売却・用途転換・組替えの選択肢はあるか |
| ④ | 承継との整合性 | 次世代が管理・保有・分割しやすい資産構成か |
| ⑤ | 実行体制 | 経営・財務・不動産・税務・法務の判断が連携しているか |
特に重要なのは、⑤の実行体制である。
- 不動産の判断を不動産部門だけで行う
- 財務部門は資金繰りだけを見る
- 経営者は本業だけを見る
- 税務は相続対策だけを見る
このように判断が分かれると、部分最適はできても、全体最適はできない。CRE戦略とは、こうした分断をつなぎ直すことである。
まとめ:不動産は経営目的を実現するための資源である
CRE戦略の失敗は、物件を選び間違えたことだけで起きるわけではない。本質的な失敗は、経営目的と不動産判断が分断されることである。
- 事業の変化に不動産が対応していない
- 財務戦略と不動産保有が矛盾している
- 遊休不動産の方針が決まっていない
- 相続・承継に不動産が組み込まれていない
- 物件単体の利回りだけで判断している
このような状態では、不動産は経営資源ではなく、経営上の制約になってしまう。
不動産は、ただ保有するものではない。本業を支え、財務を安定させ、承継を円滑にし、将来の選択肢を生み出すための資源である。
だからこそ、不動産を判断するときは、次の問いから始める必要がある。
【問うべきこと】
この不動産は、経営目的の実現に本当に貢献しているか。
CRE戦略とは、不動産の活用方法を考えることではない。経営目的と不動産判断をつなぎ直し、企業価値を高めるための経営戦略である。
ご相談・お問い合わせ
アテナ・パートナーズでは、企業不動産を単なる保有資産ではなく、事業・財務・承継・資産戦略を支える経営資源として整理するご支援を行っています。
- 遊休地や低稼働不動産の方針を整理したい
- 本社・工場・倉庫・賃貸不動産の保有方針を見直したい
- 不動産と財務戦略、事業承継を一体で考えたい
- 「売る」「持つ」「活用する」を比較し、合理的な方向性を決めたい
不動産単体の価格や利回りだけではなく、経営全体との整合性から判断することが重要です。
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