会社の土地は売るべき?「売却ありき」が危険な理由をCRE戦略で解説
2026/08/11
はじめに
「今なら高く売れる」は、売却理由になるのか
会社が使っていない土地を持っている。以前は工場の資材置場として使っていたが、現在はほとんど稼働していない。そこへ不動産会社から、次のような提案を受けたとする。
「最近、この周辺は地価が上がっています。今ならかなり高く売れますよ」
経営者としては、当然こう考えるだろう。
「使っていない土地なら、今のうちに売った方がいいのではないか」
確かに、合理的に聞こえる。
しかし、企業不動産を経営戦略の一部として捉えるCRE(Corporate Real Estate)戦略では、この時点で「売却」と結論づけることはしない。
なぜなら、「高く売れること」と「売るべきこと」は、まったく別の問題だからである。
一方で、「先代から持っている土地だから」「不動産は持っていた方が安心だから」と、明確な理由もなく保有し続けることも適切ではない。
企業不動産で重要なのは、「売るか、持つか」から考え始めないこと。
では、何から考えればよいのか。
目次
なぜ企業は「売却」から考えてしまうのか
遊休地や低稼働の不動産について、売却が最初の選択肢になりやすいのには理由がある。売却は非常に分かりやすいからだ。
例えば、いくらで売れるのか、簿価はいくらか、どれだけ売却益が出るのか、いつ現金化できるのか――といった数字を比較的把握しやすい。
特に長期間保有してきた土地は簿価が低く、現在の市場価格との差額が大きくなっていることがある。「3,000万円で取得した土地が、今なら1億円で売れる」と言われれば、売却したくなるのも自然だろう。使っていない土地であればなおさら、「会社に必要のない資産を売って現金化するのだから、経営上も合理的だ」と思えてくる。
しかし、ここに一つの落とし穴がある。売却価格という「不動産の数字」だけを見て、会社全体への影響を十分に見ていない可能性があることだ。
売却価格だけでは判断できない
仮に、現在ほとんど使っていない土地を1億円で売却できるとする。では、その土地は売却すべきだろうか。答えを出すには、少なくともその先を考える必要がある。
例えば3年後、工場を増築する可能性があったとする。売却してしまえば、その土地は使えない。必要になったときに、周辺で同じような土地を取得できる保証もない。あるいは、今は使っていなくても、物流拠点、新規事業、従業員施設など、将来別の用途で必要になるかもしれない。逆に、今後10年間使う可能性がほとんどないのであれば、保有を続ける合理性は低くなる。
つまり、現在使っているかどうかだけでは、将来の必要性までは判断できない。
もう一つ考えるべきなのが、売却代金の使い道である。1億円で売却したとして、その資金をどうするのか。借入金の返済、設備投資、M&Aの資金、別の不動産の取得、あるいは手元資金として残す――選択によって会社への効果はまったく異なる。
したがって、不動産の出口と、資金の行き先はセットで考える必要がある。売却それ自体は、経営目的ではない。
売却によって失うものもある
不動産を売却すると現金を得られる。一方で、失うものもある。分かりやすいのが将来の選択肢である。土地は一度売却してしまえば、原則として元には戻らない。
特に、本社周辺、工場隣接地、物流拠点周辺、駅前、幹線道路沿いなど、代替性の低い土地では、この問題が重要になる。
さらに、企業によっては不動産が金融機関からの借入における担保余力を構成している場合もある。売却によって現金を得る一方で、会社が持っていた別の財務的な選択肢を失う可能性もある。
もちろん、それでも売却した方がよいケースはある。重要なのは、「売却すると何を得るか」だけではなく、「何を失うか」も比較することである。
では、「持ち続ける」のが正解なのか
ここまで読むと、「では、土地は売らずに持っていた方がいいのか」と思われるかもしれない。そうではない。
「売却ありき」が問題なのと同じように、「保有ありき」も問題である。
企業には、長年ほとんど検討されないまま保有され続けている不動産がある。旧工場跡地、使わなくなった社員寮、低稼働の倉庫、将来使うつもりで取得した土地、先代の時代から保有している土地などである。こうした不動産について、「いつか使うかもしれない」という理由だけで保有し続けるケースがある。
しかし、保有にはコストがある。固定資産税、維持管理費、修繕費、保険料などの直接的な支出だけではない。より重要なのは、その不動産に固定されている資本を、他の事業へ使えないことである。
仮に1億円の価値がある土地をほとんど使わずに保有しているのであれば、「その1億円を本業へ投資した場合、何ができるのか」という比較も必要になる。だからといって売却すべき、という意味ではない。将来の事業利用という明確な目的があれば、保有には十分な合理性がある。
問題なのは、「戦略的に保有している」のか、「何となく持ち続けている」のか、である。
「売る・持つ」の二択から抜け出す
企業不動産の議論が難しくなる理由の一つは、「売るか、持つか」という二択になりやすいことである。しかし、本当に選択肢は二つしかないのだろうか。
例えば、今は使っていない土地でも、第三者へ貸せるかもしれない。テナントの事業用建物を建設し、長期賃貸する「建て貸し」という方法もある。現在の土地を売却して、より自社の事業に適した不動産へ入れ替えることもできる。
つまり、選択肢を広げれば、単純な「売却 vs 保有」ではなくなる。ここで初めて、CRE戦略としての比較が始まる。
保有・活用・売却・組み換えという4つの選択肢
企業不動産については、大きく次の4つの選択肢で考えることができる。添付の第5回骨子でも、この4案比較を統合テーマの中核に置いている。
① 保有
現在の状態を基本的に維持しながら保有を続ける。ただし単なる放置ではなく、将来の事業利用など明確な目的を持った戦略的保有であることが前提である。
② 活用
所有権を維持しながら、不動産の使い方を変える。第三者への賃貸、建て貸し、用途転換などが考えられる。
③ 売却
不動産を売却して現金化する。ただし、売却後の資金をどこへ再配分するのかまで考える必要がある。
④ 組み換え
現在の不動産を手放し、より経営戦略に適した資産へ入れ替える。例えば、低稼働の土地を売却して、事業に必要な物流施設へ振り向けることも考えられる。
こうして見ると、「売るか、持つか」だけでは企業不動産の選択肢を十分に捉えられないことが分かる。
図:経営目的から意思決定に至るCRE戦略の思考フロー
判断の出発点は「経営目的」
では、この4つの中からどう選べばよいのか。ここで、最初に戻る。出発点は不動産ではない。
経営目的である。
例えば、今後5年間で本業を拡大したい企業と、事業承継を控えて資産構成を整理したい企業では、同じ土地を持っていても答えが違う可能性がある。
だからこそ、経営目的 → 不動産に求める役割 → 選択肢 → 比較 → 意思決定 という順番で考える必要がある。
「この土地はいくらで売れるのか」ではなく、
「この会社はどこへ向かおうとしており、そのためにこの不動産はどのような役割を果たすべきなのか」
から考える。これがCRE戦略の出発点である。
では、4つの選択肢を何で比較するのか
ここまでで、「使っていないから売却する」「昔から持っているから保有する」という判断では不十分であることは、お分かりいただけたと思う。しかし、ここで次の問題が出てくる。
保有・活用・売却・組み換えを、具体的に何で比較すればよいのか。
収益性だけだろうか。キャッシュフローだろうか。借入への影響だろうか。税金だろうか。事業承継だろうか。
実は、企業不動産の意思決定では、これらを一つずつバラバラに見るのではなく、同じ評価軸に並べて比較することが重要である。
次回の後編では、「保有・活用・売却・組み換えをどう比較するか」をテーマに、企業不動産を判断する8つの評価軸と、企業によってその優先順位がなぜ変わるのかを具体的に解説する。
前編まとめ
企業不動産について考えるとき、「今なら高く売れる」「使っていない」という理由だけで売却を決めるべきではない。同様に、「昔から持っている」という理由だけで保有を続けることも、戦略とはいえない。
重要なのは、その不動産が自社の経営にとってどのような役割を果たすべきなのか。そこから考えることである。そして、保有・活用・売却・組み換えという複数の選択肢を比較する。
では、その比較をどのように行うのか。後編では、ここから具体的な意思決定の方法へ進む。
【結論】
不動産は金融商品ではなく、経営を支える「構造資産」である。
「売る/持つ」の二択ではなく、保有・活用・売却・組み換えの4案を、経営目的から同じ評価軸で比較する――それがCRE戦略の出発点であり、IRES(Integrated Real Estate Strategy)の基本思想である。
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