「事業承継を成功に導く不動産戦略」 〜資産を守り、価値をつなぐ4つの視点〜(5)
2025/06/23
不動産の棚卸しと評価プロセスの実務
〜事業承継に向けた不動産資産の“見える化”〜
はじめに
なぜ今、「不動産の棚卸し」なのか
事業承継を考える際、多くの経営者が「株式の承継」「後継者の育成」「納税資金の確保」といった課題に目を向けがちです。しかし、その土台となるのは、企業やオーナー一族が保有する資産の把握、特に「不動産の棚卸し」です。
不動産は流動性が低く、評価額も一律ではなく、かつ保有目的や利用形態も複雑です。それゆえ、承継の成否を大きく左右する“見えにくいリスク”となる可能性があります。
本稿では、事業承継を視野に入れた不動産の棚卸し・評価において押さえておくべき実務的ポイントを整理し、ステップごとに解説します。
ステップ①
現状の不動産情報を正確に把握する
まずは、企業およびオーナー一族が保有する不動産の情報を一覧化します。ここで重要なのは「名義」と「使用実態」を明確にすることです。
【チェックリスト例】
- 所在地・地番
- 登記名義人(法人・個人・共有)
- 固定資産税評価額、路線価、公示地価
- 利用形態(自社利用、第三者賃貸、遊休地)
- 担保設定の有無(抵当権、根抵当権など)
- 利用契約(借地・使用貸借・賃貸借)
- 収益性(年間賃料、稼働率、維持管理コスト)
この作業は、税理士・司法書士・不動産鑑定士等と連携することで精度が高まります。
ステップ②
不動産の「資産価値」を適正に評価する
保有する不動産の評価額は、税務・会計上の評価と、実勢価格に差が生じることがあります。承継に向けては、評価の考え方を目的に応じて使い分ける必要があります。
【主な評価方法】
- 固定資産税評価額:市町村が課税のために評価した金額。毎年送付される「固定資産税納税通知書」に記載。
- 路線価評価:相続税・贈与税の算定に用いられる評価額。国税庁公表の「路線価図」に基づき算定。
- 公示地価・基準地価:国土交通省が公表する土地の時価に近い評価。実勢価格の指標となる。
- 実勢価格:不動産会社が査定した売却可能価格。市場動向によって大きく変動。
- 収益還元法:収益物件(賃貸アパート等)に適用。将来得られる収益を現在価値に割り引いて評価。
【評価活用の例】
- 自社株評価対策:純資産価額方式に影響する帳簿価額や含み益の見直し
- 相続対策:相続税評価額の算出と納税資金の準備
- M&A:資産の妥当な評価による譲渡価格の調整材料
ステップ③
資産のポジショニングを再定義する
棚卸しにより洗い出された不動産について、「この不動産は本当に必要か?」「誰が保有すべきか?」という視点で分類します。
【分類のフレームワーク】
- 中核事業資産 → 事業の遂行に不可欠な本社・工場・店舗等。法人で保有し続ける。
- 投資・収益資産 → 賃貸マンション、商業ビル等。法人で保有し、収益源として活用、または管理会社へ移管。
- 遊休・低収益資産 → 利用されていない土地、老朽化物件。売却・活用・個人移転を検討。
この再定義により、「資産の構造改革」が可能となり、事業承継時の選択肢が広がります。
ステップ④
評価と戦略に基づいた“組替え”を実行
棚卸しと評価により浮き彫りになった課題に対して、具体的な対策を講じます。
【組替えの選択肢例】
- 不要資産の売却 → 株価圧縮+納税資金確保
- 法人→個人への移転 → 株価評価圧縮(譲渡課税・取得税に注意)
- 管理会社への移管 → 資産の分離と評価コントロール
- 利活用(例:コインパーキング)→ 遊休資産の収益化
ポイントは、税負担と評価への影響を慎重に比較し、「承継後に残すべき資産構成」を見据えて動くことです。
まとめ
不動産の“視える化”が事業承継の礎になる
不動産の棚卸しとは、単なる資産の洗い出しにとどまりません。そこには、
- 誰に
- どのタイミングで
- どのように保有・承継させるか
という、事業承継全体の設計思想が表れます。
不動産は「流動性の低い資産」であるがゆえに、早期からの準備が極めて重要です。棚卸し・評価・再定義・戦略的組替えという4つのステップを意識しながら、自社とご家族の未来にとって最良の資産体制を構築していきましょう。
次回は、本連載の最終回として、これまでのまとめとともに「経営者がいま動き出すべき実践行動計画」を提示します。
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