「事業承継を成功に導く不動産戦略」〜資産を守り、価値をつなぐ4つの視点〜(4)
2025/06/20
はじめに
法人名義の不動産、相続できない資産?
中小企業の経営者が保有する財産のなかで、実際には個人ではなく法人名義となっているもの、それが「法人保有不動産」です。工場、社屋、賃貸アパートなど、法人の財産として計上されているものの、実質的にはオーナー一族の資産に近いものも少なくありません。
しかし、法人所有の不動産は「個人の遺産」ではないため、相続時にはそのまま子に移転することはできません。会社に属する財産である以上、自社株式を後継者が取得しない限り、その不動産の実質的支配権を承継することは不可能です。
つまり、法人不動産の承継=「株式の承継」を伴う複雑な課題であり、「名義をどう扱うか」「いつ移転すべきか」が経営承継全体の設計に大きな影響を及ぼすのです。
名義をどうするか
法人所有か、個人所有か
そもそも、法人に不動産を持たせるべきか、あるいは個人名義とすべきか——これは税務・法律・事業承継の観点から検討すべき重要テーマです。
【法人所有のメリット】
- 経費処理がしやすく、法人税の節税に資する
- 担保提供や融資交渉において法人としての信用力を高めやすい
- 所有・賃貸・管理が一体化し、事業運営が効率化
【法人所有のデメリット】
- 株価評価を押し上げ、贈与・相続時の税負担が増加
- 相続時には自社株を取得しない限り資産の承継ができない
- 法人売却やM&Aの際に不動産を切り離しにくい
【個人所有のメリット】
- 不動産自体が遺産となり、相続により直接承継できる
- 不動産所得が個人に帰属するため、所得分散が可能
- 株価評価に影響を与えない
【個人所有のデメリット】
- 法人が使用する場合は賃貸借契約や使用貸借の整備が必要
- 使用料が不当に安いと“低額譲渡”とみなされ課税対象になる可能性がある
- 管理責任や固定資産税の納税義務は個人が負担
このように、どちらにも一長一短があるため、「事業上の目的」と「承継上の負担」のバランスを見ながら設計していく必要があります。
タイミングはいつが良いのか?
不動産を個人から法人に移転する場合や、法人から個人へ移す場合、いつその行動を起こすかによって、税務・評価への影響は大きく異なります。
【ケース1:引退前に法人から個人へ移す】
メリット:
- 移転後は個人財産として扱えるため、相続対策が容易に
- 株価評価の圧縮に直結する
デメリット:
- 移転時の譲渡所得課税(法人側)と取得税(個人側)
- 所得税や登録免許税の発生
【ケース2:承継後に不動産を法人に残す】
メリット:
- 法人の資産として引き続き運用でき、業績の安定要素となる
- 不動産が後継者の事業展開に資する
デメリット:
- 株価が高くなりやすく、相続税・贈与税の負担が重くなる
特に注目すべきは、「税負担と移転の自由度がトレードオフ関係にある」という点です。譲渡課税や登録免許税を払ってでも、事前に資産を動かすことで、承継時の選択肢を増やせるケースもあります。
具体的な承継スキームと留意点
法人保有不動産の承継において活用される代表的なスキームには以下があります:
【スキーム①:不動産管理会社の設立】
法人所有の不動産を別法人(管理会社)へ移管し、事業会社から切り離す。これにより、事業会社の株式評価を圧縮し、承継税負担を軽減。
留意点:
- 管理会社の設立コスト、移転登記・税負担が生じる
- 不動産取得税や登録免許税が移転時に発生
【スキーム②:会社分割による資産分離】
会社法上の分割手続きを通じて、不動産部門を分離・独立させる。後継者には事業会社側の株式のみを承継させ、不動産は他の相続人等に帰属させる。
留意点:
- 法的手続きが複雑で専門家の支援が必要
- 会社の信用や取引関係に影響を与える可能性
【スキーム③:信託の活用】
法人所有の不動産を信託財産とし、後継者を受益者に設定。事業承継の円滑化とともに、管理・処分の柔軟性を確保。
留意点:
- 信託契約の内容設計が極めて重要
- 信託報酬などのランニングコスト
おわりに
見えない“支配権の継承”をどう設計するか
不動産は「所有者の名義」で語られがちですが、法人所有であっても最終的な支配権を握るのは、その法人の株主です。つまり、「不動産を誰が相続するか」ではなく、「不動産を所有する法人の株式を誰が引き継ぐか」が、本質的な問題なのです。
承継の成否は、「資産の組み換えと移転の設計」によって決まります。名義をどうするか、時期をいつにするか、そしてその背景にある戦略をどう描くか。
早期の計画立案と、専門家との綿密な連携によって、不動産が将来の重荷ではなく、事業の礎として次世代へと継承される環境を整えることができるのです。
次回(第4話)は、事業承継における「不動産の棚卸しと評価プロセスの実務」をテーマに、具体的な実行ステップを解説いたします。
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