「事業承継を成功に導く不動産戦略」〜資産を守り、価値をつなぐ4つの視点〜(2)
2025/06/12
不動産は資産か、負債か?
事業承継でまず確認すべきこと
◆「この不動産、引き継がせるべきだろうか?」
これは、事業承継のご相談を受けたとき、非常によくいただくご質問です。
長年、会社と共に歩んできた不動産。社屋、工場、倉庫、そして自社保有の賃貸物件――。
「創業のころに思い切って買った土地」
「金融機関からの信用を得るために担保提供してきたビル」
「節税のつもりで購入したアパート」
それらは、確かにこれまでの経営を支えてきた“資産”だったかもしれません。
しかし、いざ承継の段階になると、それが**「資産」ではなく「負債」になり得る現実**に直面することがあります。
今回はまず、不動産が事業承継にどう関わるのか、その基本を整理しながら、「最初に確認すべきこと」を具体的にご案内します。
不動産をめぐる承継の“落とし穴”
事業承継において不動産がトラブルを引き起こす典型的なパターンには、以下のようなものがあります。
- 名義と実態が一致していない
法人名義と個人名義が混在しているケースは少なくありません。
「会社の資産だと思っていた不動産が、実は先代社長の個人名義だった」
「個人で所有し、会社が賃料を支払って使っていた」などの状況では、相続税や所得税に影響を与えることになります。
2. 資産価値と用途が見合っていない
都心部に立地していたり、含み益が多かったりする不動産を「価値がある」と思い込んでいても、実際には…
- 自社では今後使わない
- 賃料収入が見込めない
- 維持コストが高すぎる
といった問題が隠れていることもあります。帳簿の数字以上に、実態が重要です。
3. 借入や担保の状況が不透明
現時点で担保提供している不動産、借入金の返済が残っている不動産が、承継時に「想定外の重荷」となることがあります。
とくに、後継者に連帯保証を引き継がせる形になると、本人の同意が得られず、承継が進まないリスクもあります。
まず取り組むべきは「棚卸し」と「見える化」
これらのトラブルを未然に防ぐために、最初に着手すべきステップが「不動産の棚卸し」です。
以下のようなチェックリストを活用しながら、不動産の状態とリスクを洗い出すことが必要不可欠です。
✅ 不動産棚卸しチェックポイント
項目 | 確認事項 |
|---|---|
所有名義 | 法人/個人(親族含む)/共有のいずれか? |
用途 | 自社利用/賃貸中/空き家/遊休地など |
取得価格と現在の評価額 | 含み益・含み損の存在 |
担保状況 | 金融機関へ担保提供中か否か。債務者は誰か。 |
借地・借家関係 | 借地借家法の適用関係や更新状況、敷金・権利金の額 |
修繕・老朽化の状態 | 現状の建物状況調査、修繕履歴と今後の長期修繕計画 |
固定資産税の金額 | 税負担の大きさ・節税余地 |
過去の相続・贈与歴 | 将来的な評価への影響(小規模宅地の要件等) |
トラブルの 有無 | いざ活用する際の障害 境界線・不法占有・越境・滞納・違法建築物・瑕疵 |
この棚卸し作業は、経営者ご本人と信頼できる士業(不動産コンサルタント・税理士・弁護士など)と早い段階で一緒に進めることをお勧めします。
ケーススタディ:棚卸しから見えた「残すべき資産」「処分すべき不動産」
ある地方都市で製造業を営むオーナー社長(70代)の例です。
長年、本社工場として使ってきた土地建物に加え、退職金の代わりに個人で取得した賃貸アパート、そして10年前に相続した郊外の更地を所有されていました。
棚卸しの結果、次のような結論に至りました。
- 本社工場:立地は悪くないが老朽化が激しく、建て替えには億単位のコスト
- 賃貸アパート:空室率が高く、収支が赤字化していた
- 更地:10年以上活用しておらず、草刈りなどの維持コストのみが発生
この経営者は最終的に、本社工場の一部をリースバックで再開発し、賃貸アパートは売却、更地は一部を親族に贈与する形で承継設計を見直されました。
不動産を手放す決断は勇気が要りますが、後継者と会社の今後のビジョンや経営戦略を議論し、周辺環境の変化も見据えながら、“残すべきもの”と“切り離すべきもの”を明確にすることこそ、経営者の最終責任とも言えるでしょう。
棚卸しのあとは、「何のために持つのか」を問い直す
単に不動産を整理するだけでは不十分です。
重要なのは、後継者にとって“その不動産が何を意味するか”を明確にすることです。
- 将来の収益源として必要なのか?
- 本業の成長に資する立地なのか?
- 節税・分散投資として有効なのか?
これらの問いに経営としての意図を持って答えられるかどうかが、承継成功の分かれ目です。
おわりに:最初の一歩は「可視化」から
不動産の承継には、「感情」「心理」「税務」「法務」「資金」などが複雑に絡み合います。
だからこそ、“棚卸し”というシンプルな行為が、すべての第一歩になります。
- 事業は、数字だけでは引き継げません。
- 不動産も、気持ちだけでは引き継げません。
この先に続く連載では、自社株評価への影響、法人化や共有解消といった戦略、後継者との関係構築など、さらに深く踏み込んでまいります。
次回は、不動産が「自社株評価」にどう影響するのか――
見落としがちな“評価の落とし穴”とその対策についてお伝えします。
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