「事業承継を成功に導く不動産戦略」〜資産を守り、価値をつなぐ4つの視点〜(1)
2025/06/09
プロローグ
不動産をどう扱うか―― それが、事業承継の「成否」を分ける鍵になる
「承継の準備は進んでいますか?」
この問いに、自信を持って「はい」と答えられる経営者は、実のところそれほど多くはありません。
それもそのはず、事業承継とは単に「社長のバトンを次世代に渡す」だけではないからです。
事業そのものはもちろん、資産、信用、人脈、組織文化――そしてもうひとつ、忘れてはならないのが「不動産」です。
これまで長年にわたり事業を支え続けてきた自社ビルや工場、倉庫、店舗、賃貸物件、遊休地など、
中小企業の多くが不動産という形で事業資産の一部、あるいは相当な割合を保有しています。
そして今、その不動産が「承継を複雑にする元凶」になっているケースが急増しています。
「この不動産、引き継がせるべきか。処分するべきか」
オーナー社長の皆さまにとって、不動産は長年の経営の“戦友”のような存在です。
景気の波に耐え、事業を守り、融資の担保となり、あるいは収益をもたらしてきた。
だからこそ「なるべく残してやりたい」「いずれ子どもが使うだろう」と思われるのも当然のことです。
しかし、実際に承継の局面になると、こうした思いとは裏腹に、以下のような事態が次々と起こります:
- 法人名義と個人名義が混在しており、権利関係が不明確
- 自社株評価が不動産によって大幅に上がり、相続税の負担が重くなる
- 築年数が古く、改修コストや維持費が後継者の負担になる
- 用途が未定の遊休地があり、トラブルや税コストの原因になる
- 親族で共有名義となっており、承継後の意思決定ができなくなる
こうした事態の背景には、不動産特有の「分かりにくさ」と「感情の入りやすさ」が存在します。
不動産は「モノ」であると同時に、「資産」「思い出」「信用の源泉」「家族の象徴」といった多くの側面を併せ持つ存在。
そのため、冷静な損得の判断が難しく、感情や先入観が判断を曇らせやすいのです。
不動産の“適切な承継”は、後継者への最大の贈り物になる
では、どのように不動産と向き合い、承継に備えるべきか。
それは、以下の3つの視点を持つことから始まります。
【1】「資産価値」だけでなく「使いやすさ」も考える
後継者が事業運営の中で活かせるか、維持コストは妥当か、将来的に収益を生む見込みがあるか。
数字と実態の両面から「資産としての有用性」を評価することが第一歩です。
【2】名義・法的整理を怠らない
所有権や使用権の不明確さは、トラブルの温床になります。
法人・個人・親族間の「誰が・何を・どう使っているか」を明確にし、必要であれば名義変更や法人化などの対策を講じましょう。
【3】税務・法務のプロとも早めに相談する
不動産は、相続税評価・自社株評価・贈与・担保設定など、法的・税務的に高度な判断が必要です。
判断を誤れば、数百万円単位で税額に影響が出ることもあります。
“不動産を整理する”ことは、“承継を設計する”ことである
本連載では、これから4回にわたり、不動産を活かした「円滑な事業承継」の進め方を、実務経験をもとに具体的に解説してまいります。
取り上げるテーマは、以下の通りです:
■ 第1回
「不動産は資産か負債か? ― 事業承継でまず確認すべきこと」
→ 不動産棚卸し・名義・用途・担保などの基本確認項目を整理します。
■ 第2回
「自社株評価を左右する“不動産”の盲点と対策」
→ 相続税・贈与税の観点から見た、企業価値と不動産の関係性を解説します。
■ 第3回
「不動産を活かす5つの戦略:相続・税・法人化の視点から」
→ 法人化、信託、売却、共有解消など実践的な対策をご紹介します。
■ 第4回
「次世代に“価値ある資産”を渡す:専門家と進める不動産承継」
→ 後継者目線の資産設計、感情・心理面の配慮、専門家との進め方を提示します。
いずれの回も、特定の商品やサービスの勧誘を目的とするものではありません。
- 経営者として、資産の最後のバトンをどのように渡すべきか――そのヒントを掴んでいただくことを主眼にしています。
最後に:
事業は人が継ぎます。
不動産は「整えて」継がせなければ、真の資産にはなりません。
今こそ、ご自身の持つ不動産について、立ち止まり、見直す好機です。
この連載が、皆さまの事業と資産の「次なる一歩」を考える一助となれば幸いです。
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