趣味と実益との狭間

　現在筆者は建築・不動産のコンサルティングの仕事に主として従事してから早いもので20年を超えた。

　なぜここまで長く携わることができたのか。それは建築・不動産の幅・奥行きが広く深く、筆者の好奇心を絶えずくすぐり続けられているからといえる。

　そして、お客様・クライアント様が満足していただくということは大前提であるが、この分野に身を置いている以上、やはり街並みなり、建物なり、地域社会なり、まちづくりなり、その案件プロジェクトに関与した人たちの記憶に残り、また実体として後世にその足跡を残したい、という”野心”を満たしたいという思いもある。

　それを実現させるために、クライアント様の要望・置かれている環境・将来発生する可能性のあるリスクなども念頭に置きながらも、物件の特徴、関連する法令なども調査する。ここまでは、この業界に従事する者にとっては当然やるべきこと。

　が、それ以上深く突っ込んで調べようと思ってしまうのは、個人的な趣味の領域に達しているのかもしれない。例えば、地形・地盤・地質とその成り立ち、気象条件、埋蔵文化財、その地域の人口動態、歴史、産業、文化、特産品、所有者の祖先の人柄・近隣との付き合い方など個人的な興味の幅は広がるばかり。あるいは、地域の盛衰の原因や経緯も必ずあるはず。その課題と解決策を想像することも楽しいひと時。さらに、ある建築物があったときに、その当時の施主や設計士の思い、思想・ポリシーなどを推理することも興味がそそられるものの一つ。そして、それらの想像・推理が的中したときには、一人に悦に浸っている状況に陥る。

　こんな個人的興味を感じながら仕事を進めているので、時には余計に時間を要し、後悔することもままである。が、この仕事を続けてこられたのも、このような楽しみがあるからだろう。