今後の高齢者施設等の長期一括借上(サブリース)契約のリスクヘッジ方法③
2024/01/29
第4章 リスクヘッジ方法
(1)家賃改定条項の追加
高齢者施設等の建貸事業では、一般的に着工前に入居者となる施設運営事業者を決め、その事業者の意向に応じて建物設備の仕様を設計する。そのため、賃貸借契約期間満了まで入居者が入れ替わることは想定されず、長期間家賃を固定する契約条件とすることが一般的である。このことは、貸主側にとっても長期間にわたって安定的な家賃収入を確保できるメリットがある。特に、競合物件が多く、常に新規物件が供給され、過当競争による家賃値下げ圧力がかかり、空室率の上昇に悩まされるエリアや用途の物件に比較すると、そのリスクを回避することが可能であることは第1章で言及したとおりである。
しかしながら、第2章、第3章で見た通り、高齢者施設等においても不動産投資環境は悪化の兆しが見られ、特に他の用途の物件であれば契約期間がより短く、第2章で見た外部環境の変化、特に家賃上昇局面では契約期間満了時に家賃改定交渉の余地が残されている一方、高齢者施設等の建貸事業では逆に家賃値上げ交渉の足かせとなってしまう。
そこで、従来の家賃値下げ局面だけを想定して、長期間家賃を据え置く契約条項を見直し、外部環境情勢に応じてある程度改定できるようにしておくことも必要であろう。ただし、この家賃改定条項を盛り込むことは、一方で家賃値下げリスクも包含することになるので、留意する必要もある。
(2)固定金利化
第2章(1)で分析した通り、昨今の金利上昇局面においては、借入金の金利が低位の時期に固定化させ、金利上昇リスクに対抗することは有効な手段である。このことは、元利均等返済の場合、今後の返済額が固定されることにつながり、将来的な資金繰りの安定化にも効果がある。
(3)介護サービスの見直しへの柔軟な対応
第3章(3)で見たとおり、介護報酬は3年ごとに改定され、その改定内容によって施設運営事業者の経営状況は大きく影響を受ける。したがって、事業者は適宜改定内容を十分に検討し、介護報酬のより増額を目指して提供する介護サービスの改善が常に求められている。
この場合、サービスの改善について、施設運営事業者の運営方法やサービス提供方法の工夫や投資だけで対応できるのであれば、貸主側に関与・協力できる余地は少ない。しかしながら、その改善方法を実施するにあたり、建物の使用方法等について賃貸借契約の条項によって制約が生じている場合や建物設備に改修工事等が必要となるのであれば、貸主も運営事業者の改善努力に協力するような柔軟さが求められよう。
(4)行政による家賃補助
高齢者施設等の建貸事業においては、契約当事者が建物所有者の貸主、その建物を賃借し利用者に転貸する施設運営事業者、そして実際に入居利用する利用者の3者が関与する。そして、第2章(2)で見たように、近傍同種の住居の家賃相場が上昇しているにもかかわらず、第1節でみたような契約条項により家賃の改定ができない、あるいは利用する高齢者等の家計状況により家賃値上げ対応力に余力がない、第2章(3)で見たように施設運営事業者の財務体力の低下による家賃値上げ対応能力に余力がない、そして所有者の投資環境の悪化の状態が継続すれば、3者のいずれかの経営破綻という最悪の事態に陥りかねない。このことは、関係する主体、特に社会的弱者である高齢利用者に大きなダメージを与えることになる。
このことを解決する一つの方策として、行政による家賃上昇分に対する補助という形も検討の余地はあると思われる。この場合、最終的に建物所有者の家賃収入に反映させる必要があろうが、誰に対してどのように給付するのか、という検討も慎重に行う必要があろう。
第5章 まとめ
本稿では有料老人ホームなどの高齢者向け住まい・施設向けの建貸事業における投資環境が悪化する現状とその要因分析を行い、そのリスクヘッジ方法を検討した。
この事業の特徴は、第2章の外部要因については、エリアや用途などを問わず、すべての不動産投資事業において同じような影響を及ぼすものである。一方、第3章の介護業界における課題については、まさに介護業界特有の現象ではある。
不動産コンサルティングマスターにとっては、エリアやその業界のおかれている状況や今後の見通しなども十分に分析・研究したうえで、クライアントに対してより高度で専門的な提案をしていくことが、今後さらに求められることになろう。
【了】
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